疾患ごとの解説と治療法
腰椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアは、最も聞きなれた腰の疾患であり、数多くの人がその病に悩まされています。
主な症状は、下肢へのシビレ、痛み、筋力低下もしくはマヒ、腰痛を伴います。腰以外に頚にも発症しますが、ここでは腰椎椎間板ヘルニアについて説明します。このヘルニアと言う単語は、「hernia」というラテン語からきていて、「hernia」→「逸脱する or 脱出する」との意味があります。
何が逸脱する(脱出する)のか?
髄核と呼ばれるゼリー状の物質が、脊髄神経が通る椎間孔に逸脱することです。椎間板(軟骨)は、中央にある髄核と髄核を取り囲む線維輪からなります。髄核の周囲の線維輪に、加齢や何らかの外力が働くことによって亀裂が入り、その亀裂に沿って髄核が逸脱します(図1)。髄核が椎間孔に逸脱し神経を圧迫することが、椎間板ヘルニアです。
また、腰椎椎間板ヘルニアの好発部位は、①L4 / L5②L5 / S1③L3 / L4の順となり、ヘルニアの部位によって神経障害が起こる場所は変わります(図2)。
神経障害の症状は、下肢へのシビレ・痛み、下肢の筋力低下又はマヒ、腰痛、排尿障害(おしっこの出が悪い、尿漏れetc)を生じることです。腰の痛み=ヘルニア(首では、首の痛み=ヘルニア)と思いがちですが、ヘルニアの症状が強ければ強い程、下肢へのシビレ・痛み、筋力低下、マヒが強くなり腰の痛みは軽度になることが多々あります。腰の痛みの原因がヘルニアだと安易に考えるべきではないでしょう。
図1
図2
診断方法は?
一般的な整形外科にある単純X線検査(レントゲン)は、骨の状態しか確認できず軟部組織(筋肉、軟骨、椎間板etc)を正確に見ることはできません。当然ですが、ヘルニアを判別することは難しくなります。
つまり、ヘルニアの確定診断をするには、レントゲンではなくMRI、脊髄造影などの詳しい検査をする必要があります。
治療法は?
手術方法:
近年、医学の発展に伴い手術範囲がより小さくなり、体への負担も軽減しています。一昔前では、手術をすると手や足が動かなくなる、首の手術は命の危険性があると言われていましたが、今ではそれらの危険性は激減しています。その理由は、内視鏡手術による最少侵襲脊椎手術の貢献が大きいと言えます。内視鏡によって切開創は、3~10mmとなり神経を傷つける可能性が低下し安全性は高まりました。手術は良くないからと放置してしまうと、上肢(頸椎の場合)や下肢へのマヒ、排尿障害といった重篤な症状が悪化し日常生活に支障を来たす可能性が高くなります。このような神経障害が長期間続いた場合、手術をしたとしても元の状態に戻らない可能性もあります。神経障害が日に日に悪化していくならば、早期に手術を考えるべきです。
保存療法:
軽度の椎間板ヘルニアでは保存療法が推奨されています。保存療法には、薬の服用、ブロック注射、リハビリテーションなどがあげられます。リハビリテーションには、筋力訓練、脊柱や下肢のストレッチ、ヘルニア周辺部の筋肉を緩めるなどがあります。
無症候性ヘルニア
椎間板ヘルニアが見つかったとしても、必ずしも症状が出るとは限りません。ヘルニアが神経にギリギリ当たっていない、もしくは、神経に当たっていても症状が出るまでに至っていないためです。全てのヘルニアが神経障害を起こすことはないため、悲観する必要はなく、腰の痛みはヘルニアが原因と思い込むこともありません。ただ、現在はヘルニアの症状がないだけで、腰に負担をかけると悪化する可能性が高く、日頃から筋力訓練やストレッチなどで予防するべきでしょう。
ギックリ腰
ギックリ腰
ギックリ腰
「ギックリ腰」は、正式な病名では無く、正確には「急性腰痛」と言われています。この急性腰痛の原因には諸説ありますが、経験上、腰椎(腰骨)の椎間関節もしくは仙腸関節の捻挫であることが多いと感じます。捻挫と言うと足首の捻挫を思い浮かべるかと思いますが、足首と同様に、何らかの外力によって椎間関節or仙腸関節を捻ります。そして、痛くて立ち上がれない(力が入らない)、寝返りをうてない、曲げ伸ばしできないなどの強い痛みを生じます。
椎間関節とは?
背骨は24個の椎体(頸椎7椎、胸椎12椎、腰椎5椎)からなっています。その内、腰椎は5つからなり上下の腰椎をつなぐ関節が椎間関節です。下位の腰椎で捻挫することが多く、起床時の起き上がりや不意に体を捻った時に椎間関節を捻り発症します。
図1
仙腸関節とは?
いわゆる骨盤にあたる仙骨と腸骨からなる関節が仙腸関節です。仙腸関節は、人体の中でも可動性が少ない強固な関節の一つと言われています。しかし、強固な仙腸関節は、筋力低下、姿勢不良、疲労などで一時的に不安定な状態となり、くしゃみや咳、かがんだり、物を持ち上げた時に仙腸関節を捻り発症します。
治療法は?
ギックリ腰(急性腰痛)は、多くが椎間関節や仙腸関節の捻挫と上記で記しました。どちらも、関節を捻挫することで患部に炎症が起こり、強い痛みを生じます。炎症とは、「発赤」「痛み」「腫れ」「熱感」の4徴候を表しますが、24~72時間の間で最も炎症反応が活発になるため、この期間に炎症反応を抑えるかが治癒を早めるポイントです。転んで足をすりむき傷口から出血することと、捻挫で起きる炎症は同じ生理的な反応を示しています。言い換えれば、捻挫によって組織(関節、靭帯、筋肉etc)が損傷し、その損傷部分から出血する状態を炎症と考えると理解しやすいでしょうか。炎症を抑えるには、患部を「冷やす」、コルセットなどで固定して「安静」がもっとも効果的です。つまり、炎症時に動かすことは、患部をさらに悪化し痛みを助長するだけでなく、治癒過程を大幅に遅らせる要因となるため注意が必要です。まずは安静、そして、患部を痛めないような手技療法や電気療法が効果的です。
肩の痛み
40肩、50肩
40肩、50肩
「40肩 or 50肩」は、正式な病名では無く、正確には「肩関節周囲炎」と言われています。肩関節周囲炎とは、肩関節周囲の筋肉や靭帯、関節包(関節を包む袋状の組織)などに何らかの原因で炎症が起こり、強い痛みを生じることです。なぜ、40肩もしくは50肩と呼ばれるのかというと、40歳~50歳代に多く発症するためです。
なぜ、40歳~50歳代に多いのか?
肩関節は、人体の中で最も可動範囲が広い関節です。肩関節を支持する骨の形状や靭帯は、他の関節よりも脆弱であり安定性がないため広範囲の関節運動を可能にしています。関節を安定するために、関節包や靭帯、複数の筋肉(回旋筋腱板)が肩関節を覆い安定性を高めています。そして、この回旋筋腱板(棘上筋、棘下筋、小円筋、大円筋)によって様々な方向への関節運動を可能にしています(図1)。しかし、加齢と共に回旋筋腱板の一部が変性し血流不全となることで、わずかな外力で損傷し炎症と共に痛みを伴います。中でも棘上筋が、外力による影響を受けやすく高い頻度で損傷すると言われています。損傷し炎症した筋は、その治癒過程において筋肉の柔軟性が低下し、関節の可動範囲が極端に狭くなり可動域の制限、いわゆる関節拘縮となり「肩が上がらない」「手が後にまわらない」などの症状になります。また、関節包や靭帯にも同じように炎症と痛みを伴い、関節拘縮を起こします。40歳から50歳代は、高い頻度で回旋筋腱板、関節包、靭帯を損傷しやすい年代と言えます。
図1
動かさないほうがいい?
肩関節の筋や関節包、靭帯などに炎症を生じると上記で記しました。炎症とは、「発赤」「痛み」「腫れ」「熱感」の4徴候を表します。また、肩関節が、痛くて眠れない(夜間痛)、じっとしてもジワジワと痛い(安静時痛)と感じる時は、炎症反応が強いことが考えられます。炎症がある時に動かすことは、患部をさらに悪化し痛みを助長するだけでなく、治癒過程を大幅に遅らせる要因となるため注意が必要です。そのため、痛みが強い場合は、むやみに動かさず安静にするべきです。
いつ動かすのか?
肩関節の夜間痛、安静時痛がある時には、炎症反応が強いため動かすべきではありませんと上記で記しました。あくまで目安ですが、夜間痛や安静時痛が治まった状態であれば、少しずつ動かすべきです。しかし、無理に動かすと再度、患部に炎症が起こる可能性があるため、痛みを基準にして痛みのない範囲内で動かしましょう。
肩関節は可動域が広い関節ですが、その動きは単純な動きではありません。肩関節の動きの中で、結帯動作(背中を掻く動作)が複合的な関節運動になるため、改善するには時間を要します。まずは、挙上(前から手を上げる)、次に外転(体の横から上げる)の順に少しずつ肩関節の可動域を広げましょう。
治療法は?
炎症反応が強い状態では、炎症を抑えるために患部を「冷やす」「安静」がもっとも効果的です。また、夜間痛や安静時痛がある場合には、薬(痛み止め)を服用し、しっかりと休む必要があります。まずは冷やして安静、そして、患部を痛めないような手技療法や電気療法が効果的です。肩関節が拘縮してしまうと、背骨、肩甲骨の動きも悪くなり、回旋筋腱板の筋力低下も顕著となります。背骨、肩甲骨の可動域訓練と共に回旋筋腱板の筋力トレーニングも必要となります。
膝の痛み
膝の痛み
膝の痛み
外傷以外の膝の痛みは、変形性膝関節症、膝周辺の絞扼性神経障害、成長痛、腫瘍が原因として考えられます。発症する年代も様々であることから、治療法や予防法も様々であり治癒するまでに難渋することが多々あります。
変形性膝関節症とは?
変形性膝関節症は、50歳以上の中年層から膝(大腿部と下腿部からなる関節)の関節軟骨(半月板)が徐々にすり減ることで、膝の骨が変形し痛みと共に可動域制限を生じます(図1)。軟骨とは、全ての関節に存在しており緩衝器(クッション)の役割を担っていますが、加齢や関節面への繰り返しのストレスですり減っていきます。しかし、軟骨への血液供給が少ないため、一度、すり減ると修復はほぼ望めません。軟骨は、内側と外側に存在していますが、特に、内側の軟骨がすり減ることが多くあります。そのため、内側への荷重は痛みを伴うので外側への荷重となり、次第にO脚になります。そして、軟骨がすり減ると関節へのクッションの役割が低下し、膝の骨が徐々にすり減り変形し痛みを生じます。
図1
膝の水は抜く?抜かないほうがいい?
膝に水が貯まることは、関節内の組織(半月板、靭帯など)が損傷して炎症を生じ炎症物質が貯留することです。正常な膝関節にも、少量の水は貯留されていますが、関節内に何らかの損傷を生じると大量の炎症物質が膝に貯まります。つまり、膝が腫れて水が貯まることは、損傷した組織からの炎症物質が貯まることを指します。少量の水であれば体内に吸収されますが、大量の水は吸収されにくく、組織の修復を阻害し治癒過程を遅らせます。そのため、腫れて水が貯まっているならば、炎症が収まるまで水を抜く必要があります。「水を抜くと癖になる」というのは、単に炎症が収まらず水を抜いてもすぐに水が貯まるという状態であるということです。
治療法は?
手術療法:
膝の変形が強く、荷重時の激しい痛みから歩行困難になり、膝の曲げ伸ばしができないなど、日常生活に支障が出る場合は手術適応となります。手術は、膝の関節を全て取りかえる人工膝関節全置換術や膝の関節の一部を取りかえる人工膝関節片側置換術があります。術後、すぐに動けるわけではなく、リハビリテーションによる可動域訓練、歩行訓練を行う必要があります。術前の痛みは、かなり軽減され歩行も改善することから、日常生活に支障が出る場合は手術を考えるべきです。また、手術を躊躇してしまうと、股関節や足首、腰に影響が及ぶ可能性があるため注意が必要です。
保存療法:
軽度の変形性膝関節症であれば、保存療法で十分に症状は緩和します。膝関節内へのヒアルロン酸注射、薬の服用(痛み止め)、リハビリテーションがあげられます。リハビリテーションには、可動域訓練、筋力トレーニング、電気療法、手技療法があります。また、膝の痛みが強いと体全体のバランスが崩れてしまうため、骨盤や下肢のアライメントを調整する必要があります。